研究組織

研究組織紹介Research Organization

本研究領域では、免疫学、神経科学、寄生虫学、ナノ工学という異なる分野の研究者が協力し、トロゴサイトーシスに共通する仕組みと、その生命現象における役割を明らかにします。

免疫細胞、脳のマイクログリア、赤痢アメーバという異なる研究対象を比較するとともに、ナノピペットを用いた新しい解析技術を領域全体で共有することで、分野の壁を越えた『トロゴ生命科学』の確立を目指します。

研究体制

A01班 免疫細胞におけるトロゴサイトーシス

A02班 マイクログリアにおけるトロゴサイトーシス

A03班 赤痢アメーバにおけるトロゴサイトーシス

B01班 ナノピペットの活用によるトロゴサイトーシス解析技術基盤の開発
研究体制図
研究体制図。A01 免疫細胞、A02 マイクログリア、A03 赤痢アメーバの3班が分野横断的な比較解析でつながり、B01 技術開発が共通基盤技術を提供して、新たな学問領域「トロゴ生命科学」の確立を目指す
A01班

免疫細胞におけるトロゴサイトーシス

私たちの体を病原体から守る免疫細胞は、さまざまな方法で情報をやり取りしています。その一つが、別の細胞に直接触れ、表面にある分子の一部を「かじり取る」トロゴサイトーシスです。A01班では、免疫反応において重要な役割を担うMHC分子などが、細胞から細胞へどのように移動するのかを調べます。

さらに、分子を受け取った細胞の性質や働きがどのように変化するのかにも注目します。1個の細胞ごとに遺伝子の働きを詳しく調べる1細胞RNAシーケンスや、多数の遺伝子を一度に調べるCRISPRスクリーニングなどの技術を用いて、「かじり取り」に必要な遺伝子や分子を見つけ、その仕組みを明らかにします。

三宅 健介Miyake, Kensuke

所属 東京科学大学 総合研究院
職位 准教授
研究分野 免疫学、好塩基球、アレルギー炎症、トロゴサイトーシス
researchmap researchmap.jp/7000025581
研究室HP miyake-lab.immune-regulation.org
ORCID 0000-0003-1149-3755
Google Scholar Google Scholar プロフィール

私が挑む「かじり取り」の謎

免疫細胞は、サイトカインなどの物質を放出するだけでなく、ほかの細胞に直接触れることでも情報をやり取りしています。その一つが、相手の細胞膜や表面分子の一部を「かじり取る」トロゴサイトーシスです。

私はこれまで、希少な免疫細胞である好塩基球が、周囲の細胞とどのように関わりながら、アレルギーなどの炎症を調節しているのかを研究してきました。その過程で、好塩基球が樹状細胞からMHC分子をトロゴサイトーシスによって獲得し、T細胞とコミュニケーションしているという予想外の現象を発見しました。

本研究領域では、好塩基球をはじめとする免疫細胞の間で起こる分子の移動を、1細胞RNAシーケンスを含む最新技術を用いて解析します。そして、細胞が相手から何を受け取り、それによって性質や役割をどのように変えるのかを明らかにしたいと考えています。

異なる研究分野の研究者と協力することで、免疫学だけでは見えてこなかったトロゴサイトーシスの共通原理を発見し、「トロゴ生命科学」という新しい研究分野を切り開くことを目指します。

 

研究者からひとこと

私は、幼少期から患っているアトピー性皮膚炎を治したいという思いから、研究の道に進みました。アレルギーに深く関わる希少な免疫細胞・好塩基球の研究を続けるなかで、トロゴサイトーシスという不思議な生命現象に出会い、その迅速でダイナミックな変化に強く惹かれています。本領域のメンバーとともに、トロゴサイトーシスの謎を解き明かしていけることを楽しみにしています。

中山 勝文Nakayama, Masafumi

所属 立命館大学 薬学部 免疫微生物学研究室
職位 教授
研究分野 免疫学、マクロファージ、樹状細胞、環境微粒子
researchmap researchmap.jp/7000010847
研究室HP ritsumei.ac.jp/~mnakayam
ORCID 0000-0002-9839-7143

私が挑む「かじり取り」の謎

免疫細胞は、それぞれ異なる役割をもちながら、互いに情報を交換して私たちの体を守っています。私はこれまでの研究で、NK細胞が樹状細胞からさまざまな分子を獲得し、免疫反応を調節していることを発見しました。さらに最近では、樹状細胞が死細胞からトロゴサイトーシスによってMHCクラスI分子を獲得することも明らかにしてきました。

本研究では、樹状細胞で起こるトロゴサイトーシスにさらに注目し、CRISPR活性化スクリーニングなどの手法も活用しながら、その仕組みを詳しく解析していきます。

トロゴサイトーシスがどのような仕組みで起こるのかが分かれば、この現象を起こしやすくしたり、逆に起こりにくくしたりすることで、将来的には病気の治療へ応用できる可能性もあります。

 

研究者からひとこと

ペットの犬が餌を食べる姿を見ていて飽きないのと同じように、私は、マクロファージという免疫細胞が細菌や傷んだ細胞を食べる様子を見るのが楽しくて、研究を続けてきました。そして、免疫細胞は「食べる」だけでなく、「かじる」こともすると分かり、この現象にますます引き込まれています。

本領域では、医学から工学まで幅広い分野の研究者と協力し、免疫細胞の「食べる」「かじる」という働きが、生体防御にどのように役立っているのかを解き明かしたいと考えています。

A02班

マイクログリアにおけるトロゴサイトーシス

脳の中には、神経細胞だけでなく、それを支えるさまざまな細胞があります。マイクログリアはその一つで、脳の中を見回りながら、不要になったものを取り除いたり、神経細胞の状態を整えたりしています。A02班では、マイクログリアが神経細胞の一部や、細胞のエネルギー産生に関わるミトコンドリアを「かじり取る」現象に注目します。

独自に開発した、脳の細胞同士の関係を実験室で再現する三次元培養系 Glioneuronal Unit(GNU)や、細胞の微細な構造まで観察できる超解像顕微鏡を使って、この「かじり取り」が、いつ、どこで、どのように起こるのかを調べます。そして、トロゴサイトーシスが神経細胞や神経回路を正常な状態に保つうえで、どのような役割を果たしているのかを明らかにします。

小山 隆太Koyama, Ryuta

所属 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部
職位 部長
研究分野 神経科学、マイクログリア、シナプス貪食、ライブイメージング
researchmap researchmap.jp/ryutakoyama
研究室HP ncnp.go.jp/nin/guide/r2
ORCID 0000-0001-7108-174X
Google Scholar Google Scholar プロフィール

私が挑む「かじり取り」の謎

脳の免疫細胞であるマイクログリアは、不要なものを丸ごと食べるだけでなく、神経細胞の一部を「かじり取る」、すなわちトロゴサイトーシスを行うという不思議な性質をもっています。私たちはこれまでに、マイクログリアがシナプスの一部をトロゴサイトーシスによって取り除き、その結果として神経回路の活動が変化することを明らかにしました。

しかし、かじり取られたものは、その後どうなるのでしょうか。私たちは特に、神経伝達に不可欠なエネルギーを供給するミトコンドリアに注目しています。マイクログリアに取り込まれたミトコンドリアは、単に分解されるだけなのか、それとも新たなエネルギー源や情報源として利用されるのか。さらに、取り込んだミトコンドリアによって、マイクログリア自身の性質や働きが変化するのかという点にも興味をもっています。

また、脳の左右でトロゴサイトーシスの活性が異なる可能性にも注目し、この現象が神経活動や脳機能の左右差とどのように関わるのかを明らかにしたいと考えています。異なる細胞や生物でトロゴサイトーシスを研究する領域メンバーと協力し、「細胞は何をかじり取り、その後どのように利用するのか」という生命現象の共通原理に迫ります。

 

研究者からひとこと

私はこれまで、細胞は「何を食べるのか」「どのように食べるのか」を研究してきました。しかし最近では、「食べた後に何が起こるのか」こそが本質なのではないかと考えています。分解するのか、利用するのか、それとも食べた細胞自身を変えてしまうのか。トロゴサイトーシスという不思議な現象を通して、細胞同士の新しいコミュニケーションの仕組みを明らかにしたいと思っています。

A03班

赤痢アメーバにおけるトロゴサイトーシス

赤痢アメーバは、たった一つの細胞からなる生物ですが、ヒトの腸に感染すると、周囲の細胞に直接触れ、その一部を「かじり取る」ことができます。この現象は、赤痢アメーバが組織へ侵入し、病気を引き起こす過程に関係していると考えられています。

A03班では、「かじり取り」を活発に行う赤痢アメーバと、トロゴサイトーシスをあまり行わない近縁のアメーバを比較することで、どのような遺伝子や分子がこの現象に必要なのかを明らかにします。さらに、ヒトの腸に近い環境を小さな装置の中で再現するColon-on-Chipという技術を使い、アメーバによる「かじり取り」が腸の細胞や免疫反応にどのような変化を引き起こすのかを調べます。

津久井 久美子Tsukui, Kumiko

所属 東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 生物医化学分野
職位 准教授
研究分野 寄生虫学、赤痢アメーバ、トロゴサイトーシス、ファゴサイトーシス、オートファジー
researchmap researchmap.jp/kn-t
研究室HP hn.m.u-tokyo.ac.jp(生物医化学分野)
ORCID 0000-0001-9832-916X
ResearchGate ResearchGate プロフィール

私が挑む「かじり取り」の謎

赤痢アメーバは、生きた動物細胞と接触すると、容易に「かじり取り」を行います。一方、死んだ細胞に対しては、ダイナミックに丸ごと取り込みます。これは、研究概要で紹介しているトロゴサイトーシスとファゴサイトーシスという二つの異なる現象です。

私たちはこれまでに、赤痢アメーバの貪食機構に脂質シグナルが関わること、さらに、その下流で働くリン酸化酵素の一つがトロゴサイトーシスに特異的に機能することを発見しました。しかし、赤痢アメーバが何を認識して取り込み方を変えているのか、また、異なる方法で取り込むことが赤痢アメーバ自身の挙動にどのような変化をもたらすのかは、まだ明らかになっていません。

本研究では、領域メンバーと協力しながら、赤痢アメーバで生じたこれらの疑問を解き明かし、多様な貪食機構に共通する仕組みと、それぞれに特有の仕組みの両方を明らかにしたいと考えています。

 

研究者からひとこと

赤痢アメーバの研究を始めた頃、顕微鏡の下で活発に「かじり取り」をする姿を眺めながら、「病原性があるから、こんなに侵襲的なのだろう。原生生物は遠慮がないな」と単純に考えていました。しかし驚くべきことに、トロゴサイトーシスは真核細胞に広くみられる現象であることが分かってきました。

細胞は生命の最小の「個」と考えられますが、実はその境界は、私たちが思っている以上にあいまいで、動的なのかもしれません。振り返れば、そのような境界のあいまいさが、生物の進化を押し進めてきた可能性もあります。

さまざまな分野の研究者に「かじり取り」という生命現象を知ってもらい、観察する人が増えることで、さらに深い理解につながると考えています。この研究グループが、その一歩になればと思っています。

B01班

ナノピペットを用いたトロゴサイトーシス解析

トロゴサイトーシスは、細胞同士が触れたあと、短い時間のうちに進んでいきます。そのため従来の方法では、「かじり取り」が起きているまさにその瞬間に、細胞の中で何が起こっているのかを詳しく調べることが難しいという課題があります。

B01班では、先端が非常に細いガラス管である「ナノピペット」を使って、顕微鏡で細胞を観察しながら、狙った1個の細胞から核や細胞内成分を取り出す新しい技術を開発します。これによって、「かじり取り」の前後で、どの遺伝子や分子がどのように変化するのかを1細胞レベルで調べます。

さらに、この技術をA01〜A03班のさまざまな研究対象に共通して活用することで、異なる生命現象に共通するトロゴサイトーシスの仕組みを明らかにすることを目指します。

井田 大貴Ida, Hiroki

所属 名古屋大学大学院工学研究科 電子工学専攻 情報デバイス工学
職位 講師
研究分野 ナノピペット、細胞操作、1細胞解析、オミックス解析
researchmap researchmap.jp/ida
研究室HP nuee.nagoya-u.ac.jp(ナノバイオ研究室)
Google Scholar Google Scholar プロフィール

私が挑む「かじり取り」の謎

トロゴサイトーシスでは、細胞が別の細胞の一部を「かじり取り」ます。人間であれば何を食べたのか聞くことができますが、細胞は話してくれません。何をかじり取ったのか。かじり取ることで何が起こるのか。そして、かじり取られた側には何が起こるのか。さらに、細胞は非常に小さいため、その中身を詳しく調べることも簡単ではありません。

私は、先端径がナノスケールのガラスピペット(ナノピペット)を用いて、ピペット内部の溶液を制御したり、計測したりする技術を得意としています。この技術を使って、「かじった」細胞や「かじられた」細胞の中身を回収・解析し、かじり取りによって細胞の中で何が起こるのかを明らかにしたいと考えています。

技術開発を担う研究者として、さまざまな分野の研究者と協力し、私たちの技術が免疫・神経・感染研究をつなぐ共通基盤技術となることを目指しています。

 

研究者からひとこと

私はこれまで、ナノピペットを用いた計測技術の開発を続けてきました。トロゴサイトーシスという現象は、不思議で面白いだけでなく、私の技術との親和性も非常に高いと感じています。自分の技術を生かして、この生命現象の理解に貢献できるよう、領域のメンバーとともに、その詳細を追究していきたいと思っています。

領域アドバイザーScientific Advisors

本研究領域では、関連分野で豊富な研究経験を持つ研究者に領域アドバイザーとして参画いただき、研究領域の運営や分野横断的研究の推進について助言をいただきます。

  • 烏山 一

    所属
    東京科学大学医学部 名誉教授
    専門分野
    免疫学
  • 野崎 智義

    所属
    東京大学大学院医学系研究科 教授
    専門分野
    寄生虫学
  • 小泉 修一

    所属
    山梨大学医学部 教授
    専門分野
    神経科学